Capricious

自分の気まぐれさを愛したい

おやすみ5分前

 

布団は彼氏のようなものだと思う。

 

布団は人に例えるならば

包容力があって、義理人情に厚い。

夜は優しく包み込んでくれる。

家を出なければいけない朝はもう一度眠るか

どうかの賭けを混じえた甘い時間もある。

 

 

昼からの授業までは時間があった。

自宅で満足いく食事を済ませて家を出る。

電車に揺られ、カンカン照りの日に照らされながらも

今週で最後の授業だからという理由で頑張れた。

 

「ここなんて読むの?」

「あー梁(はり)じゃないかな。」

 

隣にミズキという女の子がいる。

資格対策の授業は耳にしたことの無いような

単語もたくさん飛び交っていたためか、

ミズキはうつらうつらしていた。

きっと昼寝をしたかったのであろう。

 

ミズキが不真面目という訳でもないのは、

彼女の滑らすボールペンのインクが証明していた。

上へ下へ  左へ右へ 線路を変えては

書けていない文字を必死で書こうとしていた。

 

生憎ボールペンはフリクションではなく油性だった。

ミズキのうつらうつらが記録され、

帰りのチャイムが鳴った。

 

その日は何故だか自分も瞼が垂れるくらい重かった。

教室を出て階段をゆっくり下った。

 

ミズキにボールペンを貸していたことを思い出した。

下った学校の階段や坂、駅までの階段

それらを思い出すともはや悟りの域であった。

もし金曜の帰り 止まる電車を前に

元きた道をもどる体力が私にあるとすれば、

相当いいことがあるに違いないのだが。

体力のチャージ不足と割り切り電車に乗った。

 

電車に乗りいちばん近くの隅の座席に座った。

正面のお兄さんに寝顔を見られることなど、

気に留めず仕切りにもたれかかって数駅分は寝た。

 

 

家に着くとトートバッグをフックにかけ、

部屋着に着替え、結いていた髪を解いて頭を振った。

シャンプーの甘い香りがした。

 

溜まった疲れを全て吐き出す気持ちで、

深呼吸をした後、声を出しながら大きな溜息をついた。

 

私はあと5分程したら動きが止まる。

眠くなると人形の如く徐々に動きが遅くなる。

ぜんまいが切れてしまうように。

 

すぐに化粧を落とし手を洗った。 

冷たい水に触れて心地が良かった。

コップに水を入れて口の中をゆすぎ、

とぼとぼと部屋に向かって歩いた。

 

 

空腹も忘れて意識はぼんやりしていた。

 

冷房を付けずに扇風機に髪を遊ばれながら

小さな机に足を崩しうつ伏せて眠りについた。

 

付け忘れた冷房は気にも留めなかった。

 

 

 

ー 湿気をはらむ季節になると

居心地が悪くなり冷房をつけて寝る。

風量を弱に変え、温度を28℃まで上げる。

 

快適な温度で朝を迎えることができるのだ。

朝、布団を自分の身からばっと離す。

そうしないと寄る辺のない気持ちになって、

また抱きしめてしまいそうになる。

 

 

思い切り離してしまわないと、

また抱きしめたくなる時がある。

布団じゃなくても。